風船はどこまで上がる


空気の温度が高くなれば密度が小さくなり、軽い空気になる。
軽い空気なら、ふわふわと上昇するはずだ。
地上付近が30℃で、960hPa (地上約50m)から上空は、10℃で均一な大気があったとしよう。(現実にはありえないが)
地上付近で、シャボン玉のような超薄膜で作られた張力も質量もない風船があるとして、これに水蒸気を含まない乾燥空気を詰めて空に放したとする。
30℃の空気は、10℃の空気より軽いので、浮力が発生してふわふわと上昇してゆくはずだ。
さて、どこまで上がるだろうか?
水蒸気を含まない乾燥空気だから上昇するに連れて、乾燥断熱線に沿って温度が下がるはずだ。
30℃から、26℃→21℃→18℃→15℃→10℃と、高度とともに、どんどん温度が下がって、10℃になる高さ、780hPa(地上2200m)付近まで上昇するだろうか。

残念ながら、そうはならないのだ。
なぜなら、この超薄膜風船は、保温機能がないので、上昇すると、外気温によって同じ温度まで冷却されてしまう。
だから、960hPa付近で、外気温と同じく10℃になり、浮力を失ってそこで上昇を止めてしまうことになる。
外気温を10℃一定と仮定したが、20℃でも5℃でも、一定ならばそこで浮力を失ってしまう。

では、次のような階段状の大気があったらどうだろうか。
上と同様に、張力がなく質量もない超薄膜の風船に、水蒸気を含まない30℃の乾燥空気を詰めて、上空に放す。

階段状の気温というところに無理があるので、その領域の平均気温ということにして、実際の気温はなだらかに気温が下がっていることにする。
さて、30℃の風船は、周囲の大気よりも軽いので浮力を発生してふわふわと900hPa まで上昇した。このとき、風船の温度は乾燥断熱線に沿って23℃まで低下する。
20℃大気の中央付近まで上昇したとき、大気で冷却されて風船の温度が周囲と同じく20℃まで冷やされる。
20℃からさらに上昇すると、800hPaで11℃になるが、外気温5℃より風船の方が温度が高いのでまだ浮力がある。
ここで、5℃の大気に冷やされて、風船の温度が5℃まで冷やされる。
さらに、乾燥断熱線に沿って上昇しようとするのだが、700hPaではマイナス5℃になってしまい、外気温よりも低いので浮力が生じない。外気温よりも風船内の温度が低くなるので800hPa付近で上昇を停止する。
と、まあ、こんな動きになるはずだ。

では、どんな条件のときに風船が上昇して、どんな条件で上昇を停止するのかを考えてみよう。

風船の気温減率と大気の気温減率を比較するために、次の図を使おう。。
黒色の直線で示したのが、大気の温度、つまり大気の状態曲線である。
同時に、1000hPaから900hPaまで風船が上昇した時の乾燥断熱線をピンクの線で表示した。
状態曲線の気温減率(気温の傾き)よりも、風船の気温減率が小さいので風船内の温度は大気よりも暖かい。暖かいということは、軽いので浮力を発生して上昇するわけだ。
次に900hPa付近を見ると、やはり、オレンジ色で示した風船の中の空気が周囲の大気よりも暖かいので風船は上昇する。
では、800hPa付近を見てみよう。状態曲線の傾きが、水色で示した風船の気温減率よりも立っているので、風船よりも大気の方が暖かい。風船の方が冷えてしまうので重くなり浮力は発生しない。
順調に昇ってきた風船は、800hPa付近で上昇を停止して、この辺でふわふわ漂っていることになる。

ここまでの情報を整理してみると、大気の状態曲線の傾きが、風船の気温減率よりも寝ているときに、風船が上昇している。風船の気温減率は、「乾燥断熱線」なので、言い換えれば
大気の状態曲線が乾燥断熱線よりも寝ているときに、風船が上昇すると言える。

実は、風船が上昇する現象は、温度差による大気の上昇流を意味しており、対流活動が発生している様子を示しているのだ。

風船が上昇しないで動かない状態を、空気の動きがないので「大気が安定」していると言う。
逆に、風船が浮力を持って上昇する状態を、大気が不安定だと表現する。
まとめてみると、状態曲線が「乾燥断熱線」よりも寝ている状態では、風船が上昇する。つまり対流活動が発生して、大気の状態が不安定であるといえる。
逆に、状態曲線が「乾燥断熱線」よりも立っていると、風船が上昇出来ない。つまり空気が動かないので、大気が安定であるという。


ここまで、エマグラムを使って、大気の安定と不安定の基本的な説明をした。
しかし、これまでの説明では、説明を単純化するために、水蒸気を含まない乾燥空気について話を進めてきた。
水蒸気が絡んでくると、話が違ってくるので、それは別項で解説する。
(2013/03/09)

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